公認心理師法案について、心理カウンセラーとしての意見と、ゲイの心理カウンセラーとしての見解
こんにちは。
プロフェッショナル心理カウンセラー、ゲイの心理カウンセラーの、村上裕です。
今日も、カウンセリングルームPMRでは朝から夜まで、心理カウンセリングを提供していました。
普段は、1日のご依頼の中でゲイ男性がお1人くらいはおられるのですが、今日は全てのご依頼が女性でした。
おひとりは、男性と女性の両性と付き合ってこられた中で、女性への比重が大きいことに気付き始めた、レズビアン女性。
おひとりは、ご自身のセクシュアリティに気づき、周囲との関わりを考えておられる未成年のノンセクシャルの女性。
おひとりは、ご家族や社会生活の中でご自身の内にうまれたゲイフォビアへアプローチ中のバイセクシュアル女性。
おひとりは、思春期以降に抑圧があったけれど、禁止令を手放し、青春を謳歌し始めたレズビアン女性。
女性という性のなかにある、様々なセクシュアリティのかたち。
誰一人として同じ人生を生きたひとはおらず、だからこそ、
世界にたったひとりしか存在しないその方の、たったひとつの人生の歴史。
その歴史を紐解いていく、繊細で優しい時間をご一緒させて頂くとき、
心理カウンセラーという職業を生業としていることに、心からの感謝を感じます。
そして、セクシュアリティというのは、本当にグラデーションなんだよな、ということも改めて感じました。
ひとって、やっぱり凄いなあ。
誰もが、生きていく力強さを持っている。
さて、先日、国家資格・公認心理師のニュースが、新聞や様々なメディアに掲載されましたね。
同業の心理カウンセラーの方やクライアントの皆様、隣接分野のプロの方々からも、さっそくご質問を頂きました。
私自身、ずっと注目し続けてきた法案でもあるので、社会からの注目度の高さを改めて実感します。
ここ数日でご質問頂いた内容を整理すると、
(1):個人開業している心理カウンセラーとして、どのように考えるか?
(2):セクシュアル・マイノリティ(LGBTIQ)への影響はどうか?
(3):村上は公認心理師は取得するのか?
という3点に集約されます。
2007年から社会の中でカウンセリングルームを営む心理カウンセラーのひとりとして、
職業カウンセラーであるプロフェッショナル心理カウンセラーのひとりとして、
そして、
セクシュアル・マイノリティ(LGBTIQ)のメンタルヘルスに携わってきた、数少ない心理カウンセラーのひとりとして、
この機会に、意見を書かせて頂きたいと思います。
まず、(1)について。
私は、今回の公認心理師法案が、
「悪質なカウンセリングサービスが淘汰されていく大切な機会であるし、
これからの心理カウンセリングは、より実力主義のサービスになっていく」
と考えています。
その考えの理由として、
今回の法案内容は、指定大学・大学院を卒業した方々に、医療・福祉・教育の分野で活動するための国家資格を付与する、
という事に留まっており、
今の段階では、抜根的な心理カウンセラーの教育を見直す内容では無く、
また、医療・福祉・教育以外の産業分野に言及するものでは無いからです。
心理カウンセリングが専門技能であることは、心理カウンセリングを受けたり、心理療法を受けた経験がある方には実感頂けると思います。
私自身、某大学の心理学部に心理カウンセラーとしてお呼び頂く事がありますが、
ここで私が行わせて頂いているのは、実際の心理カウンセリングの現場からお伝えするケーススタディです。
心理カウンセリングという専門技能は、心理学の知識をただ勉強すれば出来るようになるものではありません。
心理学を学び、きちんと体系立てられたトレーニングと研修を積むことで身につけることができる技能です。
そして、質の高い心理カウンセリングサービスは、
社会背景に根ざした倫理教育と、人の心への向き合い方を身につける在り方の教育を受けることで、
初めて提供することができます。
クライアントの話しをありのままに傾聴せずに曲解する、
上から目線でクライアントに指示や助言をする、
心理療法を使って分析をするだけでクライアントと検証を行わない、
そんなふうに、あからさまな上下関係があったり、一方的だったりするものは、
良質な心理カウンセリングではないです。
私は、他のカウンセリングルームに対してどうこうと評価するつもりはありませんし、
きちんとクライアントの役に立つのなら、様々なカウンセリングサービスがあって良いと思います。
けれど、
「前に●●というところに行ったが、短い時間の中で全然話しを聴いて貰えず、カウンセラーの意見を押し付けられるだけだった」
という言葉を、残念ながら、よくお聞きすることも事実です。
カウンセリングP・M・Rには、セクシュアル・マイノリティ(LGBTIQ)の方々が多くご来室くださいますが、
この意見は、クライアントのセクシュアリティがどのようなものであるかに関わらず、お聞きすることが多いです。
心理カウンセリングというサービスは、
椅子に座って勉強したからなれるものではなく、
学問としての心理学をきちんと学び、
心理カウンセリングという技術をきちんとトレーニングし、
人の心と向かい合うことは生死に関わることである、という倫理教育と研鑽を積むからこそ、
提供することができるものだと思います。
特に、心理カウンセラーとして必要な生死観の教育や倫理教育プログラムは、
今現在、残念ながら全ての大学・大学院で実施されているわけではありませんし、
大学以外の教育機関でもそう多くありません。
今回の公認心理師法案で、クライアントから心理カウンセラーへの評価は、
よりいっそうシビアになっていくと思います。
国家資格というガイドラインが誕生したことで、
ボランティアではなく有償サービスとしての心理カウンセリングは、利用頻度が高くなるでしょう。
それに伴い、クライアントが不快や不利益を感じるカウンセリングルームは自然と廃業していくでしょう。
きちんと学び、トレーニングをし、倫理教育を受けている、
良質なカウンセリングルームが残っていくのだと思います。
続いて、(2)について。
セクシュアル・マイノリティ(以降、LGBTIQ)への影響については、
今後、協議されていく、公認心理師の教育カリキュラム次第で大きく変わります。
特に、医療・福祉に関わる機会の多いGID(性同一性障害)とインターセックス(性分化疾患)の方々への影響が大きいです。
また、教育分野においては、LGBTIQの自覚を持ちやすい思春期に、多大な影響があります。
LGBTIQの自殺リスクが非常に高いことは、宝塚大学の日高庸晴准教授や、
LGBTIQのメンタルケアの第一人者である平田俊明先生が、
その研究論文や著書で述べているところです。
(※諸先生方のご尽力が、現在のLGBTIQへの好意的な価値観の普及に繋がっていることは間違いなく、
ひとりの同性愛者として心から感謝すると共に、心理カウンセラーとして深く敬意を表します。)
現行の義務教育のままであれば、LGBTIQの自殺リスクに大きな変化はなく、
むしろ、より悪化する可能性があると考えます。
生徒のため、真摯にLGBTIQについて学ぶ教員の先生方もおられますし、
厚生労働省からはGIDのメンタルヘルスのガイドラインが発表されています。
課題としては、このガイドラインがGIDに限定されており、GIDと同様に医療領域の支援が必要な、
インターセックスには触れられていないこと、GID以外のLGBTIQには及んでいない、ということです。
幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、という時期に、
LGBTIQについてどのような情報に触れたか、どのようなコミュニケーションを経験したかは、
学校を卒業した後の10代・20代以降から人生の終焉期に至るまで、様々なライフ・イベントに影響を及ぼします。
特に、健全なアイデンティティの確立や、高い自己肯定感の獲得においては、学業時のネガティブな経験が大きな妨げになります。
このことは、私自身、2013年の日本パーソナリティ心理学会にて共同発表した、
「LGBTIの抱える問題に関する基礎的研究」のなかで発表しました。
大切なのは、LGBTIQとひとくくりにされるセクシュアリティについて、
それぞれの言葉が示すセクシュアリティへの正確な認知と、
人間が潜在的に持つ偏見と差別をうむ心の仕組みを、
人生の早い時期にきちんと知り、学び、対処することです。
今後、明確となっていくであろう公認心理師の教育カリキュラムの中に、
どのようにLGBTIQの教育が導入されるか(又は、されないか)が、LGBTIQのメンタルヘルスに大きな影響を与えると思います。
そして、その教育が、LGBTIQ当事者とその周辺家族の、嘘偽り無い現実的な声に基いて導入されるかどうかが重要です。
LGBTIQのメンタルヘルスに臨床現場で携わるゲイの心理カウンセラーとして、
今回の公認心理師法案が、LGBTIQのメンタルヘルスの向上の機会となることを、心から望みます。
(もちろん、ただ望むだけでなく、私自分も学校教育の現場にLGBTIQのメンタルヘルス教育を導入して頂く活動を行います!)
さてさて、最後に(3)について。
これはとてもシンプルで、私は、今回の公認心理師を取得する意思は無いです。
学問としての心理学を学びながら、
専門技術としてのカウンセリングの確かなトレーニングを受け、
心と命へに向き合う姿勢と在り方の倫理研修を受け、
医療・福祉・教育にとどまらず、広く産業分野でカウンセリングサービスを提供する人間の証明である、
全心連のプロフェッショナル心理カウンセラーの資格が、私には合っています。
名前のついた資格が、私を職業カウンセラーで居続させてくれるわけではなく、
私は職業カウンセラーであることに誇りを持っているから、
全心連の「聴くプロ」の資格を選びます。
良質なカウンセリングサービスを提供し続けられるかどうかは、
誰かが保証してくれる資格を持っていればいいわけではなく、
職業カウンセラーとしての実力と努力の継続、
命と心に対して誠実であり続けられるかどうかでしかないからです。
以上、一個人としての私の意見を述べさせて頂きました。
長文・乱文、失礼致しました。
読んでくださった方々へお見苦しい部分については、ご寛容くださいますと幸いです。
今回の公認心理師法案について、多くの方々の真摯な討論と改善が続けられていくことを、切に願います。
村上とディスカッションしたい!という方がおられたら、ぜひぜひ、会話をしましょう。
様々な方々と、多様性のある健全なディスカッションがしたいです。
余談ですが、カウンセリングP・M・Rは、今回の公認心理師法案をめぐる社会の様々な変化が、
良質なカウンセリングサービスの普及の機会となってゆくように、心理カウンセラーを目指す方へのインターンシップを開始します。
また、在野の心理カウンセラー・セラピストの方々に向けての、LGBTIQのメンタルヘルス勉強会や、
LGBTIQの当事者や周辺家族を中心に、気軽にセラピーに触れて学べるワークショップなども開催していきます。
そして、いよいよ法人化に向けて全国的にスタッフ募集も行っていきますので、
カウンセリングルームP・M・Rで働きたい!という方がおられたら、ぜひお声がけくださいね。
法人化するためのプロジェクトも動かしていくので、プロジェクトにご興味のある方、ぜひぜひ、お問合せください。
47都道府県の全てにLGBTIQの心理カウンセラーが居たら、素適ですよね。
待っていれば、誰かが社会を良くしてくれる、なんてことはないから。
ひとりのマイノリティとして望む、生きやすい社会、
誰もが、人間として当たり前に生きることができる社会は、
自分が創っていかなきゃね。
けれど、自分ひとりで出来ることはとても少ないから、
志を同じくしてくださる方々と共に。